略歴

2009年 3月  千葉大学理学部生物学科卒業
2011年 3月  千葉大学大学院理学系研究科修士課程 修了
2013年 4月  日本学術振興会特別研究員(DC2)
2014年 3月  東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程 修了
2014年 4月  東北大学大学院医学系研究科助教(分子内分泌学分野)
2017年 4月  東北大学大学院医学系研究科助教(分子生理学分野)

原著論文

  1. Ryo Ito, Hiroki Shimada, Kengo Yazawa, Ikuko Sato, Yuuki Imai, Akira Sugawara, Atsushi Yokoyama.
    “Hydroxylation of Methylated DNA by TET1 in Chondrocyte Differentiation of C3H10T1/2 Cells.”
    Biochemistry and Biophysics Reports, volume 5, 2016, 134-140. DOI:10.1016/j.bbrep.2015.11.009
  2. Shogo Katsura, Tomoko Okumura, Ryo Ito, Akira Sugawara, Atsushi Yokoyama.
    “Identification of Posttranslational Modifications in Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ Using Mass Spectrometry.”
    PPAR Research, volume 2014, 2014, Article ID 468925, 8 pages, DOI: 10.1155/2014/468925
  3. Ryo Ito, Shogo Katsura, Hiroki Shimada, Hikaru Tsuchiya, Masashi Hada, Tomoko Okumura, Akira Sugawara, Atsushi Yokoyama.
    “TET3-OGT interaction increases the stability and the presence of OGT in chromatin.”
    Genes to Cells, volume 19, 2014, 52-65.
  4. Hidefumi Suzuki* and Ryo Ito*, Kaori Ikeda, Taka-aki Tamura.
    *contributed equally
    “TATA-binding protein (TBP)-like protein is required for p53-dependent transcriptional activation of upstream promoter of p21Waf1/Cip1 gene.”
    Journal of Biological Chemistry, volume 287, 2012, 19792-19803.
  5. Atsushi Yokoyama, Shogo Katsura, Ryo Ito, Waka Hashiba, Hiroki Sekine, Ryoji Fujiki, Shigeaki Kato.
    “Multiple post-translational modifications in hepatocyte nuclear factor 4α.”
    Biochemical and Biophysical Research Communications, volume 410, 2011, 749-753.

所属学会

日本分子生物学会、日本生化学会

論文解説

  1. 間葉系幹細胞は脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞への分化能を保持しており、その細胞運命の決定にはDNAのメチル化環境が重要であることが知られていた。近年、メチル化DNAはTET (tet-eleven translocation)により酸化、代謝されることが報告されているが、特に軟骨細胞分化時のメチル化環境の変化は解析されてこなかった。本報告では、メチル化DNAの水酸化が軟骨細胞分化時に顕著に引き起こされることを明らかにした。TETファミリータンパク質はTET1, TET2, TET3から成るが、軟骨細胞では特にTET1の発現が誘導されていた。また、発現抑制実験からTET1が軟骨細胞分化に重要な機能を有していることを明らかにした。これらの結果から、TET1によるメチル化DNAの酸化が間葉系幹細胞を軟骨細胞へと正常に分化させるのに重要であることを示唆した。
  2. DNAのメチル化は主要なエピジェネティックコードとして古くから知られているが、近年、シトシン塩基に付加されたメチル基を酸化させる酵素としてTETファミリータンパク質が同定された。しかしながら、TETタンパク質の生理機能やその調節機構には不明な点が多く残されていた。本報告では、TET3に着目した生化学的アプローチからその解明を試みた。その結果、TET3がGlcNAc基転移酵素OGT (O-GlcNAc transferase)と複合体を形成することを明らかにした。OGTは細胞質タンパク質の糖鎖形成などに重要な酵素であるが、遺伝子発現などの核内イベントにも関与することが報告されている。TET3はOGTタンパク質の安定化を通してクロマチン領域へのリクルートを促進することを報告した。これらの結果は、TETタンパク質の新たな生理活性を示唆するものであった。
  3. 転写による遺伝子発現には基本転写因子群が必要であり、それら因子群にはTFIIDやTFIIBなどが含まれ、RNA polymerase IIの会合や活性化に重要であることが知られている。TFIIDはTBP (TATA-binding protein)やTAFs (TBP-associated factors)により構成されており、TLP (TBP-like protein/TLF/TRF2/TBPL1)はTBPに類似する因子として同定されたが、その機能には不明な点が多く存在した。本報告では、TLPが細胞周期関連因子p21遺伝子の発現調節に寄与することを明らかにした。さらに、TLPによるp21遺伝子発現活性化はがん抑制遺伝子p53依存的な転写バリアントに特異的であること、TLPがp53と生化学的に親和性を持つことを報告した。これらの結果は、p21遺伝子発現において、エピジェネティック環境、特異的転写因子に加え、基本転写因子群の多様性も重要な転写調節機構を担っていることを示唆するものであった。